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輸入凍結・低温精液による人工授精について

 本会では、「輸入凍結・低温精液による人工授精」と「凍結・低温精液による持込腹(国外で交配した母犬を輸入し国内で出産する場合)」の一胎子登録制度を2008年1月1日授精分から実施しております。
 ただし、牡犬及び牝犬は、原則として凍結・低温精液による人工授精以前に、自然な交配による出産をしたことがなければなりません。
 そこで、犬の人工授精の権威である日本獣医生命科学大学の筒井敏彦教授に、人工授精を行なうにあたっての注意事項を解説していただきました。

※なお、この記事は、会報誌「ガゼット」2007年11月号に記載されております。

犬の輸入凍結・低温精液による人工授精

日本獣医生命科学大学
筒井敏彦

 JKCでは、犬の輸入凍結・低温精液による人工授精を2008年1月1日以降に実施したものから、一胎子登録を認可することを決定した。また、海外で人工授精を行ったものについても同様の扱いとなる。ただし、国内で採取された精液の凍結・低温精液による人工授精は認めておらず、今後の検討課題となっている。
 JKCでは、すでに自然交配が困難な場合など特殊なケースについては、新鮮精液による人工授精は、自然交配に準じて取り扱っている。この場合の人工授精実施者の制限は設けていない。しかし、今回の輸入凍結・低温精液による人工授精については、獣医師が実施することを要件としている。
 JKCが今回の人工授精を認可する背景として、2004年に狂犬病予防法が改正され、犬の輸入が困難になったこと、また犬種によっては空輸を規制されたことなどによる。このため国内で優良犬を作出するためには、海外からの優秀な犬の精液を導入することは、必要不可欠であると判断したためである。
 犬の凍結・低温精液による人工授精は、現在その技術が完全には確立されておらず、研究の途上にあると言っても過言ではない。また、海外における犬の精液銀行は、精液の希釈液の組成を明らかにしていないところが多く、また、犬には種類が多いため、一括して解説することは困難な状況にある。
 そこで、ここでは犬の低温精液および凍結精液による人工授精を、主に筆者のビーグル犬を用いた研究成績を中心に解説する。

1. 犬の人工授精

 犬の人工授精は、(表1)に示したように、用いる精液で3つに区分される。すなわち、新鮮精液、低温精液、凍結精液である。
 新鮮精液は、現在実施されているもので、今後も同様の扱いとなる。JKCが新しく認可したものは、海外から輸入された低温精液と凍結精液である。
 低温精液は、精液採取後、希釈液を加えて4〜5℃に保存して輸送する。このため人工授精に使用できる期間は数日であり、なるべく早く人工授精に用いることが重要となる。
 凍結精液は、一般には精液性状の良好な年齢、例えば2〜4歳時に凍結保存されたものである。このため、いつでも使用が可能となり、半永久的に精液性状が維持される。ただし、犬の精子は、哺乳動物の中で最も凍結に耐える力が弱く、凍結融解後の精子活力は新鮮精液が90%であったものが、25%前後にまで低下する。以上のようなことから、今回認可された輸入低温精液、凍結精液による人工授精は、授精の時期を慎重に判定して実施しなければならない。

2. 犬の精液性状

 人工授精を目的に精液を採取する場合、精液はロートと試験管を組み合わせて3つに分けて採取する(図1)。

図1 犬の3分画して採取した精液

 第1液と第3液は、前立腺から分泌されたもので、精子は第2液にのみ含まれる。このため、人工授精には、第2液を用いる。正常なビーグル犬では、活発に全身運動する精子は、約90%存在し、精子数は3〜4億である。

★ 新鮮精液による人工授精
 本題ではないが、犬の人工授精の基本となるので簡単に述べる。
 犬の新鮮精液による人工授精で、妊娠に必要な精子数は、(表2)に示したとおりである。
 人工授精は、(図2)に示したように逆立ちさせた状態で、プ ラスチックカテーテルと注射器を組み合わせたものを用いて腟の奥に精液を注入して、この状態を10分ぐらい維持する。精液は、第2液に少量の第3液を加えて1.5〜2mlとする。重要なことは、第3液を多く加えると精子の濃度が低くなり、不妊となるので注意が必要である。人工授精の結果、精子数2億では、8頭中7頭(87.5%)が妊娠し、平均産子数が6.0匹、また、精子数1億では、15頭中5頭(33.3%)の低い妊娠率であった。このように妊娠させるには、精子数が2億以上必要であるため、第2液(3〜4億)をすべて人工授精に用いる必要がある。

3. 犬の凍結・低温精液による人工授精の適期

 犬の妊娠可能な交尾期間は、(表3)に示したとおりであ る。
 すなわち、犬の交尾を許す期間(発情期)は、個体によって5〜20日の幅があるが、平均10.4日と、他の動物に比較して非常に長い。妊娠可能な交配日は、精子の受精能保有期間が長いため、発情のスタートから約7日間である。これを発情出血から数えると、9〜16日となる。このため交尾または新鮮精液による人工授精は、発情出血からの日数、発情出血の性状、陰部の腫大状況、雄犬に対する交尾の許容、腟スメアーなどによって、総合的に判断して行われている。その結果、80%前後の妊娠率が得られている。しかし、低温精液および凍 結精液は、(表1)に示したように精子の活力が低下しているため、人工授精の適期をより正確に判定する必要性がある。このため、上記した基準では「真の人工授精の適期」を判断することは困難となる。そこで不可欠な技術として、血中プロジェステロン(P4)値から排卵日を推定する必要性がある。

 犬の排卵前後の血中ホルモン値の動きは、(表4)に示したとおりである。すなわち、血中の黄体形成ホルモン(LH)値が急激に上昇(LHサージー)後、約2日で排卵する。また、血中P4値が2ng/mlを超えた日が排卵日となる。LHの測定には時間(約3日)が必要なため、P4値の測定によって人工授精の日を決定する。そのためには、発情出血の8日または10日から、隔日に血中P4値の測定を行う。そして、その値から排卵日を推定し、排卵後3〜5日が人工授精の適期となる。実際には、排卵日の推定の誤差を考 え、排卵後4日に実施するのがよい。

4. 犬の輸入凍結・低温精液による人工授精

 海外から低温精液または凍結精液を輸入して人工授精に使用するためには、基本的には犬の精液銀行から空輸してもらうことになる。この場合に、輸入検疫証明書、雄犬の健康証明書などの多くの書類が必要となるのでJKCに確認しておくことが重要となる。
 犬の凍結精液は、液体窒素のタンク(倒れても液体窒素が漏れない特殊なもの)に入れて送るため、かなり大きい荷物となる(図3)。精液は、13cm前 後の細いストローに入っており、1回の人工授精には凍結されいている精子数によって本数が異なるが、数本必要となる。到着した精液は、輸送用のタンク(約1週間保存可能)から保存用のタンクに移して使用の日まで保管する。このため、保存用タンクを準備する必要があるため、保存してくれる施設を確保しておく必要がある。また、輸送用タンクは高価なため、精液銀行に送り返さなければならない。このように凍結精液の輸入には、低温精液に比較して輸送料が高額となる。
 犬の低温精液は、発泡スチロールに保冷剤を入れて空輸する(図 3)、荷物は小さいものであるが、凍結精液と異なり使用できる日数が短いため、到着と同時に人工授精に用いる。このため人工授精日に到着するように、発送をお願いする。例えばアメリカから空輸する場合は、フライトの時間に合わせて精液を採取するようにセットするため、採精から日本に到着して使用するまでに30時間前後必要となる。ホルモン測定によって排卵日を推定して、人工授精日を決定してからお願いすることで時間的には間に合う。このため、発情出血が認められれば、直ちに先方に2週間前後に精液をお願いする旨を連絡しておくことは重要である。もちろん、精液を採取する日が日曜、祭日に当たる場合もあるが、この点は先方の獣医師に了解してもらう必要がある。

図3 犬の精液の輸送

 以上のように凍結精液は、かなり余裕を持って準備でき、また、精液が凍っていれば採取から何年後の使用であっても問題はない。しかし、低温精液は雄犬が健康で、常に精液採取が可能であることが必要となる。また、輸送中の保冷状況、フライトの遅れで人工授精のチャンスを逃すこともあり得るので、同一犬の凍結精液を準備するなどを考慮する必要がある。

1) 犬の輸入低温精液による人工授精
 低温精液の人工授精は、新鮮精液と同様に腟内授精(図2)で行う。このため1回の射精精液を保存用の希釈液(精液銀行によって異なる)を添加して輸送する。一般には到着した精液をそのまま使用するが、精液量が多い場合は、遠心分離によって量を調整する。
 輸入精液によって人工授精した場合は、凍結精液も同様であるが、使用済みの精液の容器(またはストロー)からの精子のDNAを解析することが必要である。もちろん、妊娠・分娩した場合は、母犬と子犬のDNAの登録とその親子判定も必要となる。
 48時間低温保存精液による、筆者の実験成績を示すと、(表5)のとおりである。
 すなわち、4℃で48時間保存した精液を、人工授精適期に腟内に授精した結果、10頭中10頭、100%が妊娠し、産子数の平均は5.8匹であった。しかし、このうち2頭が流産し、この理由は不明であるが、低温保存によって精子に何らかの悪影響が出ているものと思われる。精液採取時の精子の活力は、平均93.5%であったが、48時間保存後には平均71.5%と、ほぼ20%の活力が低下した。この場合の精子数は4億に調整したものであるが、実際には輸入した精液はすべて使用するとよい。  また、筆者は試験的に、アメリカの犬精液銀行の協力を得て、低温精液を輸入して人工授精に用いた。その成績は(表6)のとおりである。
 すなわち、4回の輸入で、1回は2等分して2頭に人工授精した。その結果、5頭中4頭が妊娠し、不妊であった犬(No.221)の精子数が1億6千万と、受胎に必要な精子数である2億に対し、4千万不足していたことが最大の理由と考えられる。妊娠した4頭のうち1頭が流産し、ここでも低温精液による妊娠と流産の関係が心配される。
 以上のように、輸入低温精液による人工授精は、採精、輸送状況に問題がなければ、妊娠の可能性の高い人工授精であり、雄犬から精液を採取できる状況であれば、低温精液を第一に考えるのがよい。しかし、上記したようにリスクもあるので、問題が生じることを考え、同一犬の凍結精液を保険として準備できれば完璧である。
2) 犬の輸入凍結精液による人工授精
 犬の凍結精液による人工授精は、産子数を多く得るためには外科的な子宮内授精が必要となる(図4)。ただし、産子数に問題はあるが、大型犬では腟から子宮角内にカテーテルを挿入して授精する技術が進んでいる。
 凍結精液は、雌犬の排卵状況によっていつでも使用することができるため、低温精液のように輸送日を限定する必要はない。
 犬の凍結精液の人工授精は、腹部を数cm開腹して、左右の子宮角内に注入するため、手術時間は15分ぐらい必要となる。筆者が実施した凍結精液による人工授精の成績を示すと(表7)のとおりである。この実験では、片側の子宮角内にのみ授精しているので、産子数が少ないが、実際には左右に授精する。
 すなわち、10頭に人工授精した結果、9頭(90%)が妊娠した。この場合に用いた精子数は、片側の子宮角内に1億である。このように人工授精の時期を正確に決めて実施すれば、たとえ融解したときの精子の活力が25%前後のものであっても妊娠を望むことが可能である。

まとめ

 犬の輸入凍結・低温精液による人工授精の認可は、優良犬の作出にとって大きな前進である。ただ、獣医師にとっても犬の人工授精技術の習得が充分でない状況である。このため、人工授精を計画する場合、なるべく早期に掛かり付けの獣医師に相談されることが重要である。
 精液を輸入する場合、現状では自身で行う項目が多い。すなわち、相手方との交渉、輸送ルートの確認、輸入および人工授精に必要な書類などの準備に、かなりの時間が必要となる。また、人工授精を実施したい雌犬についても、遺伝病の検査などを実施しておく必要性があることが望ましい。

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